OTC医薬品の過剰摂取問題と業界での取り組み事例
現在、OTC医薬品の過剰摂取(オーバードーズ、略称OD)が社会問題として取り上げられています。オーバードーズとは薬の用法・用量を守らずに大量に摂取することを言います。
薬の濫用問題は残念ながら以前から存在しており、政府が実施している調査
注1では1987年から、長年にわたり実態調査やアンケートなどのデータが集積されています。医療関係者やNPOなどの関係者の尽力にも関わらず、残念ながらOTC医薬品の濫用も引き続き報告され、一部では増加傾向にあるとの報告がされています。
このように、不適正な使用を目的とした複数購入や用法・用量を超える多量服用等の実態が報告されていることから、濫用等を未然に防ぐことを目的に、令和5年4月1日より法令で「濫用等のおそれのある医薬品」の範囲が変更されました。「濫用等のおそれのある医薬品」とは、厚生労働省からの行政通知
注2で指定された医薬品のことで、次のとおり、対象成分が定められています。
濫用等のおそれのある医薬品
以下に掲げるもの、その水和物及びそれらの塩類を有効成分として含有する製剤で、かぜ薬、鼻炎用内服薬、解熱鎮痛薬、鎮咳去痰薬など、複数のOTC医薬品が該当します。
- ・エフェドリン
- ・コデイン
- ・ジヒドロコデイン
- ・ブロモバレリル尿素
- ・プソイドエフェドリン
- ・メチルエフェドリン
該当する製品については、原則として、薬効群ごとにお一人1包装(1箱、1瓶等)のご購入に制限されており、ご購入いただく際に次のことを確認することが定められています。
- ・1包装を超えて購入しようとする場合はその理由
- ・若年者(高校生、中学生等)のお客様につきましては、身分証等による氏名及び年齢
- ・他の販売店においての当該医薬品の購入履歴
もともと、医薬品には健康被害を避けて有効に使用していただくための適正な用法・用量などの使用方法が定められており、用法・用量を超えて服用すると、重大な健康被害につながるおそれがあります。
日本OTC医薬品協会では、OTC医薬品をご利用の皆さまや、お取り扱いいただいている薬局・薬店の皆さまに向けて、適正使用および適正販売のお願いをしているほか、当協会として、また、一部の製薬企業が取り得る様々な施策をおこなっています。
OTC医薬品業界および加盟企業による施策例(一部の製薬企業が行っている施策を含む)
- ・店舗への購入制限の依頼(購入は一人一個限り等)
- ・適正使用のための啓発素材(ポスター、POPなど)の作成と配布
- ・製品空箱の設置(レジにて製品と交換)
- ・インターネット販売業者への購入制限の依頼
- ・SNS企業との勉強会・ディスカッションの実施
- ・薬物濫用を研究する医療関係者・アカデミア(大学や公的機関における研究者)を招いた勉強会の実施
- ・薬物濫用経験者の声を聴く勉強会の実施
薬物濫用の背景には社会問題や心の問題が挙げられます。コロナ禍に薬物濫用による救急搬送が増えた事実もあるなど、オーバードーズの問題を解決するには、薬の販売方法を抑制したり、不正使用を防ぐ物理的な施策だけでなく、オーバードーズに向かわせる心の痛みに寄り添い、その気持ちを軽減するような支援も必要です。
OTC医薬品協会では、若者をはじめとする生きづらさを抱えて生きる人々に必要な情報が届くように、今後も政府機関や関連組織と連携して適切な情報発信を続けていきます。
参考情報・ウェブサイト
薬物濫用に関する相談窓口
注釈
注1: |
国立精神・神経医療研究センター 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業による「薬物乱用・依存状況の実態把握と薬物依存症者の社会復帰に向けた支援に関する研究」 |
注2: |
令和5(2023)年2月8日付け薬生発0280第1号 厚生労働省医薬生活衛生局長通知
「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則第十五条の二の規定に基づき濫用等のおそれのあるものとして厚生労働大臣が指定する医薬品」の改正について
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